2026年6月1日、訪問看護が初めて処遇改善加算の対象に加わった(制度の詳細は厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」に集約されている)。
加算率1.8%。仮に月間の介護保険請求額が200万円規模の事業所なら、月およそ3万6,000円の加算財源になる(加算率1.8%は確定しているが、金額は事業所ごとの介護保険分の請求額・地域単価により変動するため、これはあくまで一例)。しかし制度の案内が行き届かず、「何から手をつければいいかわからないまま、計画書の期限が来てしまった」という声を聞く。
本記事を書いている2026年6月28日時点では、原則の提出期限(計画書6月15日・体制届5月15日)はすでに過ぎている。しかし都道府県によっては柔軟対応が残っているケースがある。「今からでは遅い」と諦める前に、まず窓口に問い合わせることを勧める。
この記事では、その問い合わせから先の動きを3ステップに整理する。
まず、管轄窓口に連絡したとき、最初に確認すべきは次の4点だ。
- 今から6月分または7月分で算定できる余地はあるか
- 体制届・計画書の期限後提出を受け付けているか
- 令和9年3月末までの要件整備を誓約書で後追いにできるか
- 医療保険分を除いた介護保険分だけで試算する必要があるか
この4点を押さえたうえで、以下の3ステップで動く。
- Step 1:算定できるかを確認する(要件チェックと誓約書)
- Step 2:都道府県窓口に問い合わせ、提出可能な書類を確認する
- Step 3:賃金改善の配分を設計し、職員説明を準備する
重要な前提として、対象は介護保険分のみだ。医療保険(訪問看護療養費)は対象外になる。この点は後半で改めて詳しく説明する。
訪問看護現場4年目の作業療法士(OT)として、この記事は現場の実感をもとに書いている。特に医療保険と介護保険が交差するOT・PTの立場から、管理者が職員説明でつまずきやすい点も整理する。
処遇改善加算2026——訪問看護に何が起きたか
なぜ「今回だけ」の改定なのか
令和8年度の改定は、通常の3年サイクルを待たない「臨時改定」だ。物価上昇と賃金水準の乖離が社会問題になる中、政府は2026年6月を施行日として期中改定を決断した。
全体改定率は+2.03%。目的は、介護従事者の月額最大1.9万円の賃上げを実現することだ。訪問看護がこのタイミングで対象に加わったのは、長年「訪問介護と同等の賃上げ財源がない」と指摘されてきた職種格差への対応でもある。次の3年改定を待てない政策判断が、この「臨時」という言葉に込められている。
訪問看護の加算率と金額感
訪問看護に適用された加算率は1.8%だ。
参考として、同じく今回新設された関連サービスの加算率を示す。
| サービス | 加算率 |
|---|---|
| 訪問看護・介護予防訪問看護 | 1.8% |
| 訪問リハビリテーション | 1.5% |
| 居宅介護支援 | 2.1% |
介護保険分の月間請求額が200万円規模なら、1.8%をかけて月およそ3万6,000円の加算財源になる(金額は事業所ごとの請求額・地域単価で変わるため一例)。これが職員の賃金改善に全額充当される。
ただし繰り返すが、この財源は介護保険分のみだ。医療保険分の請求額は計算の対象に含めない。
Step 1——算定できるかを確認する(要件チェックと誓約書)
2ルートの要件を整理する
処遇改善加算を算定するには、2つのルートのうちどちらかの要件を満たす必要がある。
ルートA(従来型・単独ステーションの現実的な選択肢)
- キャリアパス要件Ⅰ:職位・職責・賃金体系を就業規則等に明記する
- キャリアパス要件Ⅱ:研修計画を策定し、実施記録を保持する
- 職場環境等要件:生産性向上を含む7区分から、各区分で1つ以上の取り組みを実施する
ルートB(令和8年度特例・DX・連携型)
- ケアプランデータ連携システムに加入・利用している事業所、または
- 社会福祉連携推進法人に所属している事業所
単独の訪問看護ステーションが今から取り組むとしたら、ルートAが現実的だ。ルートBはシステムへの加入手続きや法人への所属という前提条件があり、今から準備しても算定開始に間に合わない可能性が高い。
「うちの就業規則に職位と賃金体系が書かれているか?」「研修計画の記録があるか?」——この2点の確認から始めると判断が速い。
誓約書で「時間を買う」——整備は令和9年3月末まででよい
最も重要なポイントがここだ。算定時点で要件が未整備でも、誓約書を提出すれば算定開始できる。
令和9年3月31日までに要件を整備する旨の誓約書を提出することで、今から加算を算定できる仕組みがある。ただし期限後の取り扱いは自治体により異なる場合があるため、管轄窓口への確認が前提となる。
「就業規則の整備や研修計画は年内に行う。今は誓約書を出して算定を始める」という判断ができる。要件の詳細・誓約書を含む様式・Q&Aは、厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」に掲載されている事務処理手順・様式例で確認できる。
ただし誓約した要件は、令和9年3月末までに必ず整備しなければならない。誓約だけして整備を怠ると、加算の返還対象となるリスクがある。誓約書を出す前に、実際に整備できるスケジュールを確認しておくことが重要だ。
Step 2——都道府県窓口に問い合わせ、提出可能な書類を確認する
Step 1で算定が可能と判断できたら、次は書類の準備だ。提出書類は2種類ある。
ただし前提として、本記事執筆時点(2026年6月28日)では、以下の原則期限はすでに過ぎている。まず管轄の都道府県窓口に「今からでも算定できるか」を確認することが最初の一手だ。問い合わせ先がわからない場合は、厚生労働省の介護職員等処遇改善加算等の電話相談(050-3733-0222、9:00〜18:00)も活用できる。
体制等状況一覧表(体制届)
都道府県への届出書類の一つ。加算を算定する要件(算定区分・適用ルート)を報告する。
原則の提出期限は2026年5月15日。自治体により6月15日まで柔軟対応をしているケースがある。現時点での受付可否は自治体によって異なるため、管轄の都道府県担当窓口に直接確認する。
処遇改善計画書
「誰に・いくら・どの方法で賃金改善するか」を記載して提出する。
原則の提出期限は2026年6月15日で、本記事執筆時点では締切を過ぎている。遡及対応や猶予が認められるかは自治体により異なるため、窓口に確認する。
計画書の根拠資料は2年間の保存が義務となる。提出した時点から記録管理を始める体制を整えておく。
同一法人に既存の加算算定サービスがある場合
訪問介護や通所介護など、既に処遇改善加算を算定しているサービスを同一法人で運営している場合、提出期限が4月15日になるパターンがある。これはサービス種別・自治体により異なるため、必ず管轄窓口に確認する。
この場合は単独ステーションより手続きが複雑になる。既存サービスの担当窓口と合わせて確認すること。
窓口で確認すべきこと——そのまま使える質問リスト
問い合わせのときに、以下を順に確認するとよい。
- 2026年6月分または7月分から、今からでも処遇改善加算を算定できる余地はあるか
- 体制等状況一覧表(体制届)・処遇改善計画書の期限後提出は受け付けているか
- 令和9年3月末までの要件整備を誓約書で後追いにできるか
- 医療保険中心で働くOT・PTへの配分は、どう判断すべきか
- 同一法人で既に処遇改善加算を算定しているサービスがある場合、追加で必要な提出物はあるか
Step 3——賃金改善の配分設計と職員説明
配分方法を決める——基本給・手当・賞与の使い方と「月額要件」
処遇改善加算額は全額、職員の賃金改善に充当しなければならない。利益として留保することはできない。
配分方法は大きく3択だ。
| 配分方法 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 基本給への上乗せ | 毎月継続する安定した賃上げ | 今後も算定が続く見込みがある場合 |
| 手当の新設・増額 | 基本給を変えずに対応できる | 規程変更のコストを抑えたい場合 |
| 賞与への上乗せ | 柔軟に調整できる | ただし使い方に制約がある(後述) |
ここで制度上の重要なルールを確認しておく。加算額のうち半分以上は、基本給または毎月支払われる手当として改善することが求められている。 加算の全額を賞与に回すことは認められない。
つまり、「とりあえず賞与に全額上乗せ」という配分設計はできない。月々の基本給か手当に半分以上を組み込んだ上で、残りを賞与に回すという組み合わせになる。
具体的な試算のイメージを示す。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 介護保険分の月間請求額 | 2,000,000円 |
| 加算率 | 1.8% |
| 加算見込み額 | 36,000円 |
| 毎月の基本給・手当へ回す最低額 | 18,000円以上 |
| 残り | 賞与・追加手当等で調整 |
たとえば常勤6名に均等配分するなら、月額3,000円程度が目安になる。ただし実際は、勤務時間・職種・介護保険算定への関与・法人方針を踏まえて設計する。この試算はあくまで考え方の枠組みであり、金額は事業所ごとの請求額で変わる。
選択肢として現実的なのは手当の新設だ。基本給への組み込みは就業規則改訂を伴い手間がかかる。手当であれば就業規則の別紙(賃金規程)に「処遇改善手当」として追記するだけで対応できるケースが多い。月額改善分を手当で確保し、さらなる財源を賞与に上乗せするという二段構えが現実的な設計だ。
「いくら上がるの?」への答え方——職員説明の設計
管理者が最も詰まるのは書類ではなく、職員への説明だ。
訪問看護OTとして現場にいる私の実感として、「いくら上がるの?」という問いに管理者がうまく答えられないケースは少なくない。加算の配分方法が確定する前に職員から聞かれてしまうことがある。
事前に伝えるべき内容は3点だ。
- 対象になる職員の範囲(正規・非正規・職種別。介護保険での算定実績の有無で変わる)
- 一人あたりの月額見込み(試算を示す。「○月分から、手当として毎月○○円増やす予定」という形で伝える)
- 適用開始月
金額が確定していない段階でも「今確定している金額は月○○円、加算が安定したら基本給への組み込みも検討する」という見通しを先に示すことが、信頼構築につながる。
透明性のある説明が、職員との信頼関係を守ることにつながる。
実績報告書は翌年7月31日——記録管理を今から設計する
算定を開始したら、年間の記録管理ルールを同時に設計しておく。
実績報告書の提出期限は翌年7月31日(2027年7月31日)だ。計画書に記載した賃金改善額と、実際の賃金改善額が一致しているかを報告する。
乖離があると返還対象となるリスクがある。毎月の賃金台帳と加算入金額を突き合わせる仕組みを、算定開始と同時に作っておくことを勧める。管理ルールはシンプルでよい。スプレッドシート1枚で月ごとの加算額と賃金改善額を記録するだけで十分だ。列は「月」「介護保険分請求額」「加算見込み額」「実際の賃金改善額」「差額」「備考」程度でよい。
OT視点で見落としがちな「医療保険分は対象外」の落とし穴
訪問看護ステーションのリハ職が注意すべき点
繰り返しになるが、この処遇改善加算は介護保険分のみ対象だ。医療保険(訪問看護療養費)は対象外だ。
訪問看護ステーションで働くOT・PTは、医療保険での訪問と介護保険での訪問を両方行っているケースが多い。どちらの保険での訪問が多いかは事業所や利用者層によって異なるが、いずれにせよ加算の対象になるのは介護保険分のみだ。
この加算の財源は介護保険分のみから生まれる。配分自体は職種をまたいで柔軟に行えるが、医療保険の訪問のみを担当する職員への配分可否といった細部は、厚労省の通知・Q&Aや窓口で確認しておくことが望ましい。
「処遇改善加算で賃上げになる」と期待していたリハ職に対し、「医療保険での訪問分は対象に含まれない」という線引きを、事前に正しく説明できるかどうかが管理者の役割だ。介護保険での訪問分は対象になるので、職員ごとの算定実態を把握した上で伝えることが、現場の信頼を守る。
訪問看護ステーションのOT・PTは「訪問看護」の枠で1.8%が対象になる
ここで、似た名前のサービスとの混同に注意したい。訪問看護ステーションに所属するOT・PTが介護保険で訪問する場合、その訪問は「訪問看護」の一部(リハ職による訪問看護)として扱われる。したがって、適用される加算率は訪問看護と同じ1.8%だ。
名前のよく似た「訪問リハビリテーション」(加算率1.5%)は、病院・診療所・老健・介護医療院から、その施設の医師の指示で提供される別のサービスであり、訪問看護ステーションからの訪問とは制度上区別される。両者を混同しないことが重要だ。
つまり、訪問看護ステーションのOT・PTの介護保険分は、看護師と同じ1.8%の枠で処遇改善の対象になる。
ここで、2つのことを分けて考えるのが実務上の核心だ。1つは「財源がどこから生まれるか」。加算の財源は、介護保険で算定した分から生まれる(医療保険分は対象外)。もう1つは「その財源を誰に配分するか」。配分は、職種をまたいで柔軟に設計できる。看護師にもリハ職にも、常勤にも非常勤にも配分できる。ただし、職務内容や勤務実態に見合わない著しく偏った配分は避けなければならない。「財源は介護保険分から生まれる/配分は職種横断で柔軟」――この2つを分けて捉えることが、配分設計の出発点になる。
まとめ——今週中に窓口に問い合わせることが出発点だ
3ステップを再整理する。
- Step 1(今週):ルートAかBかを確認し、算定が可能かを判断する。誓約書での対応も視野に入れる。
- Step 2(今週):管轄の都道府県窓口に問い合わせ、期限を過ぎた今も体制届・計画書が受け付けられるかを確認する。受付可能なら書類作成に着手する。
- Step 3(書類提出と並行):加算額の試算→配分設計(基本給または手当で半分以上)→職員説明の内容を準備する。
最初の一手はシンプルだ。今週中に、管轄の都道府県担当窓口に問い合わせることが、この3ステップの起点になる。6月15日という期限はすでに過ぎているが、窓口への相談で道が開く可能性はある。動かなければ選択肢は閉じたままだ。
なお、訪問看護に特化した通達のまとめは、公益財団法人日本訪問看護財団の「令和8年度臨時介護報酬改定(処遇改善加算)について」が参考になる。単独運営か同一法人かで届出期日が異なる点も整理されている。
訪問看護の経営と現場の間で起きていることを、このブログでは継続的に書いていく。更新情報はX(@yama_k03)で発信している。
よくある質問
Q1. 6月分から算定できない場合、7月分から算定することは可能か?
A. 可能だ。算定を始めたい月から届け出れば、その月以降の算定ができる。6月施行に間に合わなくても、7月分やそれ以降の月から始められる。ただし開始可能な月は届出のタイミングと自治体の取り扱いによるため、管轄窓口に確認するのが確実だ。
Q2. 要件を満たせない場合、誓約書なしで算定することはできるか?
A. できない。算定には、要件を満たすか、令和9年3月末までに整備する誓約書を出すかのいずれかが必要だ。令和8年度は誓約のみで算定を始められる緩和措置があるため、要件が未整備の事業所は誓約書を使うのが現実的だ。
Q3. 非常勤スタッフも配分の対象に含まれるか?
A. 含めることができる。配分は職種・雇用形態をまたいで柔軟に行えるため、非常勤スタッフも対象にできる。ただし加算の財源は介護保険分から生まれるため、その職員が介護保険での算定にどう関わっているかは配分設計の際に整理しておきたい。
Q4. 算定しないという選択肢はあるか? 事務コストが加算額を上回る場合の判断基準は?
A. 算定は義務ではないため、算定しない選択もできる。判断の目安は、加算で得られる財源と、届出・要件整備・実績報告にかかる事務負担を比べることだ。介護保険分の請求額が小さい事業所では加算額が事務コストに見合わないこともある。一方で加算は職員の賃上げ財源であり、採用・定着の競争力にも関わるため、人材確保の観点も含めて判断したい。
Q5. 複数サービスを展開する法人の場合、計画書はサービスごとに作るのか?
A. 法人が複数の事業所を持つ場合、複数事業所をまとめて一つの計画書で作成することが認められている。ただし指定権者(届出先)ごとに届け出る必要がある。サービス種別や指定権者が異なる場合は手続きが複雑になるため、管轄窓口に確認するのが確実だ。
Q6. 医療保険のみで訪問しているOT・PTに配分することはできるか?
A. 慎重な確認が必要だ。財源が生まれる場所と配分できる相手を分けて考える必要がある。加算の財源が生まれるのは介護保険分のみだ。一方、その財源の配分は職種をまたいで柔軟に行える。ただし、介護保険での訪問実績が全くない職員への配分が適切かどうかは、職種名だけで判断せず、介護保険での算定への関与・勤務実態・法人内の配分方針を整理したうえで、厚労省の通知・Q&Aや管轄窓口の考え方に沿って確認するのが安全だ。
Q7. 賞与に全額上乗せすることはできるか?
A. できない。加算額のうち半分以上は、基本給または毎月支払われる手当として改善することが求められている。そのため全額を賞与に回すことはできない。月々の基本給か手当で半分以上を確保し、残りを賞与に充てる組み合わせになる。

コメント