「制度改正」「口述試験廃止」という見出しを目にすると、まず身構えてしまうものです。これまで積み上げてきた勉強が無駄になるのではないか、試験が難しくなるのではないか、資格そのものの価値が下がるのではないか——。独学で進めていると、こうした情報を仕分けてくれる人が身近にいないぶん、不安だけが大きくなりがちです。
結論から申し上げます。その心配は要りません。
変わったのは2つだけ。試験の骨格はそのままです。 2026年(令和8年度)の改正が動かしたのは「関門の位置」であって、最終的に求められる力ではありません。口述試験の廃止は「試験が易しくなった」という緩和ではなく、助言スキルを確かめる場を試験当日から実務補習へ移した設計変更だと読むのが正確です。
この記事では、新旧の制度を1枚で並べ、「変わる所」と「変わらない所」を分けて整理します。そのうえで、多くの受験生が気にする「難しくなるのか」「資格の価値は下がるのか」という2つの不安に、事実と推測を切り分けてお答えします。全体像さえ持てれば、この改正は不安の対象ではなく、むしろ前倒しの追い風になります。
2026年改正で変わるのは、たった2つ
まず、変わった点を確定させましょう。公式の告知(中小企業庁「令和8年度からの中小企業診断士試験における改正点について」)を読むと、改正の柱は2つに集約されます。根拠となる規則改正は令和七年経済産業省令第五十一号として2025年6月に公布され、2026年4月1日に施行されました。
変更点1:第二次試験の「口述試験」が廃止された
これまで2次試験は「筆記試験+口述試験」の2段構えでした。令和8年度からは、この口述試験がなくなり、2次試験は筆記試験のみになります。
実務上の意味は2つです。1つは、筆記試験の合格発表が、そのまま「中小企業診断士試験の合格者」の確定を意味するようになったこと。もう1つは、口述試験という工程が消えたぶん、最終合格発表が従来より前倒しになったことです。旧制度では、筆記合格発表(1月中旬)→口述試験(1月下旬)→最終合格発表(2月上旬)という流れでしたが、新制度では筆記の合格発表がそのまま最終合格発表になります。
変更点2:受験手数料が見直された(総額は据え置き)
もう1つの変更は受験手数料です。金額だけを見ると次のように動きました。
| 試験 | 改正前 | 改正後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 第1次試験 | 14,500円 | 17,200円 | +2,700円 |
| 第2次試験 | 17,800円 | 15,100円 | ▲2,700円 |
| 合計 | 32,300円 | 32,300円 | 変わらず |
注目していただきたいのは、合計額が32,300円で変わっていないことです。1次が2,700円上がり、2次が同額下がる「付け替え」の形になっています。値上げではなく、1次と2次のあいだで金額を再配分した、と理解するのが正確です。
あなたは旧制度?新制度?——自分の年度を確定させる
改正のニュースを読むとき、最初にやるべきは「自分がどちらの制度で受けるのか」を確定させることです。判定はシンプルです。
- 2025年度(令和7年度)に2次筆記まで進んだ方:口述試験があります。令和7年度が、口述試験の実施される最後の年度です。
- 2026年度(令和8年度)以降に受験する方:口述試験はありません。筆記のみで完結します。
これから学習を始める方、いま独学の途中にいる方は、基本的に新制度で受けることになります。つまり、あなたが向き合うのは「筆記のみの2次試験」です。この一点さえ押さえれば、以降の情報は落ち着いて仕分けできます。
逆に「変わらない所」を確認しておく
改正の話は、どうしても「何が変わったか」に目が向きます。しかし学習計画を守るうえで本当に大切なのは、「変わらなかった所」を明示することです。ここが安心の土台になります。
1次・2次という骨格は不変
試験が「1次試験(マークシート)→2次試験」という二段構えである点は、まったく変わっていません。1次試験の科目構成も、2次試験が事例に基づく応用力を問う位置づけであることも、従来どおりです。廃止されたのは2次のなかの口述という一工程であって、試験全体の設計図が描き替えられたわけではありません。
2次筆記の事例Ⅰ〜Ⅳ・合格基準は変更の発表なし
多くの受験生が気にするのは、2次筆記そのものが変わるのかどうかでしょう。この点について、公式から採点基準・出題範囲・合格基準を変更するという発表は出ていません。事例Ⅰ〜Ⅳという4事例の構成も、総点60%以上といった合格の枠組みも、現時点で変更は告知されていません。学習の中身を組み替える必要はない、というのが2026年7月時点で言える事実です。
登録までの道のりも維持されている
診断士として登録されるまでの流れ——1次合格→2次合格→実務補習または実務従事(15日以上)→登録——という骨格も維持されています。口述試験がなくなっても、助言スキルを身につける工程(実務補習・実務従事)はそのまま残っています。
ここまでを一言でまとめれば、変わったのは関門の「位置」であって、求められる力の「枠組み」ではない、ということです。これが本記事の核になる見方です。
「筆記が難しくなるの?」——事実と推測を切り分ける
制度改正の話で最も関心を集めるのが、「難易度は上がるのか」という問いです。ここは、事実として言えることと、推測にとどまることを厳密に分けてお話しします。整理すると、事実として言えることが2つ、推測にとどまることが1つです。この切り分けができるかどうかで、不安の大きさは変わります。
事実1:消えたのは、合格率99.98%の関門
まず押さえるべき事実があります。公式の告知によれば、口述試験は過去10年間で不合格者(当日欠席者を除く)がわずか3名で、合格率は実質99.98%でした。ほとんど誰も落ちない試験だった、ということです。
この事実が意味するのは明快です。合格率99.98%の関門がなくなっても、2次試験全体の「通過のしやすさ」はほぼ動きません。もともと落ちる人がほとんどいなかった工程が消えただけだからです。「関門が1つ減った=合格しやすくなった」とも「関門が減った=残りが厳しくなる」とも、この数字からは言えません。
事実2:公式は、採点基準の変更を発表していない
前の章でも触れたとおり、公式から2次筆記の採点基準・出題・合格基準を変更するというアナウンスは出ていません。制度上、筆記試験の難易度が上がる根拠は、少なくとも現時点では示されていない——これが公式に確認できる範囲です。
推測にとどまること:「筆記が最終関門だから厳しくなる」という声
一方で、受験生のブログやSNSでは「筆記が最後の砦になるぶん、採点が厳格化・難化するのではないか」という声が見られます。気持ちとしては理解できる懸念です。
ただし、これは公式発表に基づくものではありません。あくまで受験生側の予想であり、現時点で根拠は示されていません。事実と推測を混ぜてしまうと、必要のない不安を抱え込むことになります。
ここでの誠実な着地はこうです。制度上、難易度が上がる根拠はありません。ただし「筆記が最終関門になる」という心理的な重みは増します。難化するかどうか(事実)と、重く感じるかどうか(心理)は別の話だ、という区別を持っておくと、断片的な声に振り回されずに済みます。今後の公式アナウンスがあれば、そのときに事実として更新すればよいのです。
なぜ国は口述試験を廃止したのか——制度の「意図」を読む
事実の整理を終えたところで、もう一段だけ深く踏み込みます。「なぜこの改正が行われたのか」を読むと、資格の価値に対する不安にも答えが出るからです。公式が示す背景は、大きく3つに整理できます。
理由1:適性試験として形骸化していた
1つ目は、すでに触れた99.98%という合格率です。公式自身が「適性試験として十分に機能しているとは言えない」と述べています。適性を見極めるための試験が、実質的にほぼ全員を通していたのであれば、その工程を残す意味は薄い——これが1つ目の理由です。
理由2:運営コストの高騰と、指定試験機関の財政悪化
2つ目は運営面です。人件費や会場費といった経常的な経費が高騰し、指定試験機関である一般社団法人日本中小企業診断士協会連合会の試験会計が悪化していました。口述試験を続けるには会場と人員の確保が必要で、その負担が重くなっていた、という現実的な事情があります。
理由3:助言スキルは、試験の外で担保できる
そして3つ目が、資格の価値を考えるうえで最も重要な理由です。診断士に求められる助言スキルは、2次筆記合格後の実務補習や実務従事を通じて向上できます。つまり、口述という一度きりの試験で助言力を確かめなくても、登録に至る実務の工程でそれは担保される——だから口述試験を行う実益は乏しい、と判断されたのです。
この3つを合わせて読むと、口述廃止の性格が見えてきます。これは「診断士の質を下げる規制緩和」ではありません。助言スキルを確認する場を、試験当日から実務補習・実務従事へ移した設計変更です。確認の「タイミングと場所」が変わっただけで、確認そのものがなくなったわけではない。だからこそ、資格の難易度や価値が目減りするという理解はミスリードなのです。
まとめ:全体像を持てば、改正は追い風になる
2026年の制度改正について、要点をもう一度置き直します。
- 変わったのは2つだけ——2次の口述試験廃止と、受験手数料の付け替え(総額32,300円は据え置き)。
- 変わらない所は多い——1次2次の骨格、事例Ⅰ〜Ⅳ、合格基準、登録までの道のり。
- 難化の公式根拠はない——消えたのは合格率99.98%の関門。厳格化の声は推測にとどまる。
- 制度の意図は「位置の移動」——助言スキルの確認を、試験当日から実務へ移しただけ。
結局のところ、この改正は関門の位置を1つずらしただけで、あなたが積み上げてきた学習の価値には手を触れていません。むしろ、最終合格の確定が前倒しになったことは、合格後の動線を短くする前向きな変化です。
では、読み終えた今日、何をすればよいのでしょうか。最初の一歩は大きな計画の組み替えではありません。「自分は新制度(筆記のみ)で受ける」と確定させ、これまでの学習をそのまま続ける——ただそれだけで十分です。制度改正は、あなたの努力の方向を変える理由にはなりません。そのうえで、筆記に集中できる環境が整ったぶん、1次の基礎固めをもう一段ていねいに進めておくと、後半が楽になります。1次対策の日々の学習には、私が運営する学習アプリ「診断士コーチ」のような、スキマ時間で回せる道具を一つ持っておくと続けやすいはずです。
制度の理解が済んだ次のステップは、この「前倒しの追い風」を独学の戦略にどう落とし込むか、という話になります。その具体的な進め方は、別の記事で改めて整理します。全体像をつかんだ今が、計画を見直す良いタイミングです。Knot Worksでは、診断士独学者が「迷わず、進める」ための情報を発信しています。続きが気になる方は、ブログの新着やX(@yama_k03)の更新を追いかけていただければと思います。
出典
- 中小企業庁「令和8年度からの中小企業診断士試験における改正点について」:https://www.chusho.meti.go.jp/shindanshi/2026/260205shindanshi.html
- 中小企業庁「令和8年度の中小企業診断士試験について」:https://www.chusho.meti.go.jp/shindanshi/2026/260406shindanshi.html
- 中小企業庁 審議会資料「受験手数料の見直し等について」(2025年3月):https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/shienbunkakai/041/dl/002_2.pdf
- 中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則の一部改正(別紙・e-Govパブリックコメント):https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000293087

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