その作業、本当に必要ですか?

その作業、本当に必要ですか?──自動化の前に問う方法論を象徴する人物シルエット

訪問業務の記録は、すでにシステムに残っていた。 それでも月末になると、同じ情報を紙に書き写していた。

この作業に3年弱、違和感を抱えていた。 Claude Codeに出会ってから、累計十数時間でその作業はボタンひとつになった。

この記事は、非エンジニアがAIで業務を自動化した記録です。 ただし、本当に伝えたいのは「自動化すごい」ではありません。 自動化する前に、その作業は本当に必要なのか、という問いです。

目次

第1章 データは、もうそこにあるのに

「人より機械の方が得意じゃないか?」

そう思ったのは、初めて週報を書いた日のことだった。

訪問が全部終わって、社用車を会社の駐車場に止めて、エンジンを切る。膝の上に規定の用紙を広げて、スマホですぐろくを開く。

開始時刻、終了時刻、利用者名、休憩時間、日付。すぐろくの画面を見ながら、ペンで紙に書き写していく。

データは、もうそこにある。すぐろくの中に、全部、正確に。それを、人が、紙に、手で、書き写している。

書きながら、頭のどこかで違和感がうずいていた。

これ、誰がやっても同じやろ。誰がやっても、いや、人がやらん方がええやろ。機械にやらせた方が、絶対に正確で、早い。

そう思いながら、書き写し続けた。

最初のうちは、訪問のあった日に、その日の分を書いていた。1日5件、6件の訪問があれば、それを1日分。律儀に毎日。

でも、面倒になってきた。

訪問が終わって駐車場に着いても、書く気力が残ってない日が出てくる。明日まとめてやろう、と思って先送りする。1日が2日分になる。3日分になる。

気がついたら、1週間分まとめて書いていた。さらに気がつくと、2週間分まとめて書いていた。

それでも、月末までには出さないといけない。だから結局、月末に膝の上の用紙と格闘することになる。

このやり方で、3年弱、書き続けた。

違和感は、書くたびに毎回うずいた。「これ、機械にやらせれば一瞬やろ」「自分の時間を、こんなことに使ってる場合か」「価値を生まんよな、この作業」

たまに、同僚と話すこともあった。「これ、意味あるんかな」「すぐろくにデータあるのに、なんで紙に書き写すんやろ」。同じことを思っている人はいた。でも、誰かが声を上げて変えるわけでもなく、月末になればまた書いていた。

経営層に「これ必要ですか?」と聞こうとも思わなかった。聞いたところで、「以前からそうだから」と返ってくる気がした。それに、自分には変える力がないと思っていた。

エンジニアならコードを書いて自動化できるんやろう、と思っていた。でも、自分にはその技術がなかった。コードは読めるが、書けない。書こうとしても、調べているうちに日が暮れる。

完全に諦めていたわけじゃない。チャット型のAIに相談したことは何度もあった。「こういう作業を自動化したいんだけど」と聞いて、出てきたコードを社用車の中で読んで、よくわからなくて、結局そのままになる。

そういう小さな模索を、3年間、続けていた。

その間、毎月、月末になれば、また膝の上に規定の用紙を広げて、スマホですぐろくを開いて、書き写していた。

開始時刻、終了時刻、利用者名、休憩時間、日付。

データは、もうそこにあるのに。

第2章 「こいつならいける」と思えた日

Claude Codeという名前を初めて知ったのは、YouTubeだった。

2026年の2月。

何の動画だったかは、もう覚えていない。たぶんプログラミング系か、AI関連の動画を見ていて、その流れでおすすめに出てきた。「非エンジニアでもコードが書ける」「AIエージェントが代わりに開発してくれる」。そんな趣旨の話を、誰かが熱心に説明していた。

3年間、自分には無理だと思っていた。

ところが、その動画を見終わる頃には、ほとんど気持ちが決まっていた。試してみよう、と。

動画を見ながら、すぐに週報のことが頭に浮かんでいた。これ、あの作業に使えるんじゃないか、と。

すぐにダウンロードして、触ってみた。

最初の印象は、思っていたより、簡単だった。

「こういうことをしたい」と日本語で書くと、コードが返ってくる。それを実行してみると、動く。動かない時は、また日本語で「ここが動かない」と伝えると、修正してくれる。

3年間、コードと格闘してきた時間は何だったんやろう、と思った。チャット型のAIに何度も相談してきた。出てきたコードを社用車で読んで、わからなくて、諦めてきた。あれは、自分とAIの距離が遠すぎたんやと、後になって思う。

エージェント型のAIは、違った。

こいつならいける、と思えた。

最初に作ろうと思ったものは、二つあった。

ひとつは、週報自動化のツール。3年我慢してきた、あの作業を消すための。

もうひとつは、診断士アプリだった。自分が受験生時代に欲しかったものを、自分で作れないかと思った。

両方、頭の中にはずっとあった。技術がないから諦めていただけで、欲しいものは決まっていた。

エージェント型AIに触れて、最初に思ったのは、「これならできる」だった。

3年間、頭の中だけで止まっていたものが、ようやく動きそうな気がした。

平日の夜、訪問が終わって家に帰った後、PCを開く。週末も、空いた時間に手を動かす。1日1〜2時間。週に2〜3日。

最初は、Claude Codeに何をどう指示すればいいのかも、よくわからなかった。試行錯誤しながら、自分の言葉で「こういうデータを取り出したい」「こういう形式で出力したい」と書いていく。

エラーが出たら、エラーをそのまま貼って「これどうすればいい?」と聞く。返ってきた答えを試す。動かなければまた聞く。

これを繰り返していくうちに、何となく感覚がつかめてきた。

「自分はコードを書けない」と思い込んでいた。でも、Claude Codeは、コードを書く力ではなく、「何が欲しいか」を言語化する力を求めてきた。それなら、自分にもできた。

第3章 コードを書く力ではなく、欲しいものを言語化する力

Claude Codeを起動して、自分が欲しい機能を伝えていく。

3年間、頭の中で何度も組み立ててきた作業だった。それを言語化できたのは、中小企業診断士の試験勉強で身につけた論理的な思考と、経営情報システムの知識のおかげかもしれない。

最初にやったことは、指示を整理することだった。

実際の利用者情報をAIに貼り付けたわけではない。必要だったのは、どの画面にどの項目があり、どんな形式で出力したいかを整理することだった。

ワイズマンのどの画面のどのデータがインプットになるのか。スクリーンショットを撮って、矢印で指して、「これがインプット」と提示する。

出力したい紙の用紙のフォーマットを示す。「これがアウトプット」。

そして、いくつかの条件を整理して伝えた。

「インプット、アウトプット、条件。この3つを提示するから、これを満たすツールを作ってほしい」

そう伝えた。

返ってきたコードは、ほとんど自分の欲しい形に近かった。

実行してみる。エラーが出る。エラーをそのままClaude Codeに貼って「これどうすればいい?」と聞く。返ってきた答えを試す。動く。次の問題が出る。

これを、何度も、何度も繰り返した。

社用車の中でコードを読んで諦めていた頃と比べると、何かが根本的に違っていた。あの頃は、わからないコードを前に、孤立していた。今は、わからない時に、すぐに「わからない」と言える相手がいた。

たぶん、自分に足りなかったのは、そこだった。

開発は、地味な作業の積み重ねだった。

「ここがうまくいかない」「これを修正したい」「この機能を追加したい」。日本語で書いて、コードを試して、確認する。動けば次へ進む。動かなければ、また指示し直す。

平日の夜は、訪問が終わって家に着いた後、PCの前に座る時間。1〜2時間で、できる範囲のことをやって、また明日。週末は、空いた時間を見つけて、もう少し長めに座る。

毎日やったわけではない。週に2〜3日。気が向かない日は休んだ。気が乗る日は集中した。

開発を始めて、間もない頃のことだ。試作版を動かしてみた。

ワイズマンからデータを抽出して、自動で集計し、紙の用紙に近い形式で出力する。これまで月末に膝の上で書き写していた内容が、画面に並んでいた。

完璧ではなかった。細かいところで、書式がずれていたり、特定のパターンでエラーが出たり、まだ詰めるところはあった。

それでも、骨格は、確かにそこにあった。

「あ、これはほぼ確実にいけるな」

そう思った。

そこから、完璧な形に仕上げるまでが、また大変だった。

試作版で残っていたバグ。実際のデータで動かしてみて初めて出てくるエラー。「これは大丈夫だろう」と思っていた箇所が、実は不安定だったり。

エラーが続くと、心が折れそうになる時もあった。「もう動いたんだから、これでいいかな」と妥協しそうになる。でも、最終的にスタッフに使ってもらうものだから、不安定なままでは出せない。

エラーをClaude Codeに貼り、返ってきた答えを試し、また別のエラーが出る。それを繰り返した。

少しずつ、不具合が消えていった。

そして、ある時、最後のエラーが消えた。

完成だった。

Claude Codeを初めて触った日から、約2週間。累計で十数時間程度の作業時間。3年間、自分には無理だと思っていた作業が、目の前で動いていた。

ワイズマンのデータを取り出して、自動で集計し、必要な形式で出力する。月末に膝の上で書き写していた、あの作業が、ボタンひとつで終わる。

画面を見ながら、しばらく言葉が出なかった。

第4章 月93時間が、価値を生まない作業から解放された

完成したツールは、最初に自分で使ってみた。

会社のWindowsパソコンでセッティングして、ワイズマンのデータを取り出して、自動で集計し、紙の用紙に近い形式で出力する。試作版で見たものが、実際の業務環境で動いていた。

「使える」

そう確信した。

会議で正式に説明する前に、一部のリハビリスタッフに、できあがった週報を見せた。

自動化ツールで作ったことを説明すると、彼らから返ってきた言葉が、忘れられない。

「凄っ」

それだけだったが、3年間、自分の中だけでうずいていた違和感が、ようやく外に出ていく感じがした。

その後、リハビリの管理者の会議で、ツールを正式に説明した。「これを使えば、月末の書き写し作業がボタンひとつで終わる」と話して、画面を見せた。

そして、LINEでスタッフに配信した。使い方を簡単に書いて、ファイルを送る。

完成した日、PCの前で、ふと思った。

このツール、組織全体で考えたら、月何時間ぐらいの作業を消したことになるんやろう?

中小企業診断士の勉強をしている自分にとっては、自然な問いだった。「自分が経営者やったら、こういう数字が気になるはずや」と思った。

AIに聞いてみた。「99名のスタッフがいて、月末に転記・確認・提出まで含めて1人あたり50〜60分かかるとして、組織全体で月何時間になる?」

返ってきた答えは、月93時間。

その数字を見て、思ったのは、「まあ、それぐらいにはなるだろうな」だった。

衝撃を受けたわけではなかった。「やっぱりそうだったか」という納得に近かった。

ただ、その93時間が、これまで毎月、確実に消えていたという事実は、改めて見ると重かった。フルタイムの労働時間に換算すれば、半月分以上。組織全体で、毎月、半月分以上の労働時間が、「すでに存在するデータを、別の場所に書き写すだけ」の作業に使われていた。

ふと、コストにも換算してみたくなった。AIに人件費の概算を伝えて、計算してもらう。

返ってきた答えは、あくまで概算だが、年間でおよそ200万円。

額としては大きい。

ただ、その時、もうひとつ思ったことがあった。

これは、実質的にキャッシュフローが改善するわけではない、と。

人件費が消えるわけではない。スタッフの給料は、月93時間が消えたからといって、減るわけではない(減らすわけにもいかない)。会社から出ていくお金は、何も変わらない。

変わったのは、「価値を生まない作業」に使われていた時間が、別の何かに使えるようになった、ということだけだった。

その「別の何か」が、何になるのかは、まだわからなかった。

スタッフが、解放された時間を訪問先に向ける時間に使うかもしれない。利用者と話す時間が増えるかもしれない。書類仕事のストレスが減って、心の余裕が生まれるかもしれない。あるいは、何も変わらず、別の作業がそこに流れ込むだけかもしれない。

それでも、ひとつだけ確かなことがあった。

「価値を生まない作業」が、組織から消えた、ということだった。

ツールについては、もちろん経営層にも説明した。現場の管理者にも事前に話し、業務上・情報管理上問題がない範囲で使えることを確認した。

ただ、この数字を「月93時間削減しました」「年間200万円相当です」と、経営層に成果報告することはしなかった。

報告して褒められたいわけでも、評価が欲しかったわけでもなかった。3年間、自分の中で抱えてきた違和感が、解消されただけだった。

自分としては、それで十分だった。

第5章 自動化の前に、必要かどうかを問う

3年間、書き続けていた。

その間、自分には何もできないと思っていた。エンジニアじゃないし、変える方法もわからなかった。

でも、振り返ってみると、3年前にはまだなかった道具が、今はある。AIの世界がこの3年で変わった。それで、3年前の自分にはなかった選択肢が、今の自分にはあった。

ただ、それだけのことだった。

組織には今も、似たような書類仕事があると思う。誰も意味を答えられないまま続いている作業。前任者から引き継いだ、目的不明の繰り返し。

そういうものを見るたびに、最近は、自動化を考える前に、別のことを考えるようになった。

これ、本当に必要なんやろうか、と。

意味がないなら、廃止すればいい。意味があっても、減らせるなら減らす。それでも残るものを、自動化する。自動化したところで、無駄がきれいに残るだけかもしれない。

そういう順番で考えるようになった。

3年前の自分のように、違和感を抱えながら何もできずにいる人がいるとしたら。

その違和感は、たぶん、間違っていない。

道具は、3年前と違って、もう手の届くところにある。コードが書けなくても、何が欲しいかを自分の言葉で整理できれば、AIが代わりに動いてくれる。中小企業診断士の勉強で身につけた論理的な思考が、そこで役に立つこともある。

少なくとも、自分にはそうだった。

このことを、誰かに伝えたかったというより、書きながら、自分自身に確認している気がする。

3年間ずっと引っかかっていたことに、やっと名前がついた気がする。

自動化できるかどうかの前に、まず問い直す。

その作業、本当に必要ですか、と。

もし同じような違和感があるなら、いきなり自動化しなくていいと思います。

順番は、たぶんこうです。

  1. やめられないか
  2. 減らせないか
  3. それでも残るなら、自動化できないか

まずは、今月いちばん面倒だった作業を1つ、紙に書き出してみる。 そこから始めてみてもいいかもしれません。

自動化に踏み込んだ最初の体験は、別記事に書きました → 真っ白になった夜──AIと無限再帰を解決した記録


※本記事で扱う自動化は、実データを外部AIに送信せず、社内で確認できる範囲で検証・運用したものです。業務データを扱う場合は、所属組織のルールや個人情報保護の方針を確認してください。

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