中小企業診断士の1次試験対策で「苦手をどうにかしたい」と思ったとき、「経済学が苦手だから、経済学をやり直す」——そう考える人が多いのですが、この発想こそが独学者の時間を静かに溶かしていく原因です。
結論から書きます。苦手は「科目」ではなく「論点」で見つけ、「重要度」で潰す順番を決める。 主観的な「苦手科目」という認識を、正答率データに基づく「苦手論点」に置き換える。そして見つけた苦手を、Part2で扱ったABCランクと掛け合わせて「今すぐ潰す/試験までに潰す/深追いしない」に仕分ける。やることは、この2つだけです。
この記事は「判断軸3部作」の完結編(Part3)です
- Part1:忘却曲線編 — いつ復習するか
- Part2:ABC問題ランク編 — どの論点に時間を使うか
- Part3:苦手問題編 — 弱点をどう埋めるか ←今ここ
3つの判断軸が揃うと、「今日何を勉強すべきか」の迷いが構造的に小さくなります。
「苦手科目」という言葉が、対策の精度を下げている
勉強時間は増えているのに、模試や過去問で同じ論点を落とす。そのたびに「やっぱりこの科目は苦手だ」と感じて、また科目全体をやり直してしまう。独学の診断士対策で、このループにはまっている方は少なくありません。
「経済学が苦手なんですよね」
独学で診断士を目指す人と話すと、こういう言葉をよく聞きます。でも「経済学の何が苦手ですか?」と聞き返すと、はっきり答えられる人は多くありません。「なんとなく全体的に……」「グラフが出てくると止まる」——返ってくるのは、ぼんやりした感覚です。
これは責められることではありません。苦手というのは、もともと感覚的なものだからです。問題は、その感覚のまま対策を立ててしまうことにあります。
「経済学が苦手」という認識からスタートすると、対策は「経済学を最初からやり直す」になりがちです。テキストを1ページ目から読み直し、問題集を頭から解き直す。一見、真面目な勉強ですが、ここには無駄が潜んでいます。経済学の中にも、すでに解ける論点はあるはずです。それなのに、得意な部分まで含めて全部やり直してしまう。限られた独学の時間を、確実に削っていく勉強になってしまいます。
Part1(忘却曲線編)では「いつ復習するか」を、Part2(ABC問題ランク編)では「どの論点に時間を使うか」を扱いました。判断軸シリーズの最後に残ったのが、この「弱点をどう埋めるか」という問いです。そして弱点対策こそ、感覚で進めると遠回りになりやすい領域です。
この記事では、苦手を感覚から切り離す方法を扱います。正答率というデータで苦手を「論点単位」で特定し、重要度で「潰す順番」を決める。2つのステップで見ていきます。
なぜ苦手は「論点単位」で見るのか
「苦手科目」という言葉が、なぜ対策の精度を下げるのか。理由は単純で、科目という単位が大きすぎるからです。
診断士1次の1科目は、それぞれ複数の分野と、その下に多数の論点を抱えています。たとえば経済学なら、ミクロ経済学とマクロ経済学という大きな分野があり、その中に需要曲線、無差別曲線、IS-LM分析といった論点がぶら下がっています。1科目をまるごと「苦手」と捉えるのは、この構造を無視した認識です。
実際には、同じ科目の中に得意な論点と苦手な論点が混在しているのが普通です。需要と供給の基本は理解できているけれど、IS-LM分析になると手が止まる。これは「経済学が苦手」ではなく「経済学のIS-LM分析が苦手」という状態です。
この解像度の違いが、対策の中身を変えます。「経済学が苦手」なら対策は「経済学全部」になりますが、「IS-LM分析が苦手」なら対策は「IS-LM分析を中心に」で済みます。やり直す範囲が、何分の1にも縮みます。
苦手を科目で語っているうちは、対策はいつまでも大ざっぱなままです。まず解像度を「科目」から「論点」へ上げることです。
苦手論点の見つけ方──正答率でデータの側から浮かび上がる
論点単位で苦手を見ると決めたら、次は「どの論点が苦手なのか」を特定します。ここで主観に頼ると、また感覚の世界に逆戻りします。使うのは正答率というデータです。
主観の「苦手感」はあてにならない
「苦手な論点はどれですか」と自分に聞いても、正確な答えは返ってきません。人間の苦手感には、いくつかのバイアスがかかっているからです。
ひとつは、印象の強さに引っ張られること。一度ひどく間違えた論点は「苦手」として強く記憶に残りますが、その後の演習で実は解けるようになっていることもあります。逆に、毎回少しずつ落としている論点は、強い印象を残さないまま放置されがちです。
もうひとつは、「やっていないこと」と「できないこと」の混同です。まだ手をつけていない論点を、なんとなく「苦手」と感じてしまう。これは苦手ではなく、単なる未着手です。
感覚は、苦手の場所を正確には教えてくれません。だからデータで見ます。
問題ごとに日付と正誤を記録する
苦手論点を見えやすくする方法は、特別なことではありません。やることはシンプルで、過去問を解くたびに各問題に日付と正誤(○×)を書き込んでいくだけです。
過去問完全マスター(同友館)のような論点別の問題集なら、もともと論点ごとに問題がまとまっていて、各問題に正誤を書き込む欄が設けられています。その欄に「5/15 ×、5/28 ×、6/10 ○」のように日付と○×を積み重ねていくと、同じ論点の問題で×が続いている場所が自然と見えてきます。日付が残ると「最後にいつ解いたか」もわかり、Part1(忘却曲線編)の復習タイミング判断にも使えます。
正誤欄がない教材を使っている場合は、問題番号の横や余白に日付と○×を書くだけで構いません。
ポイントは、1周目で判断しないことです。1周目はまだ全体の正誤がそろっておらず、たまたま落としただけの論点と、本当に弱い論点の区別がつきません。判断は2周目以降に回します。
「苦手」と「未学習」を分ける
正答率が低い論点が見えてきたら、もうひとつ分けるべきものがあります。「苦手」と「未学習」の切り分けです。
正答率が低い理由は2つあります。ひとつは、まだ十分に学習していないから。もうひとつは、複数回学習したのに解けるようにならないから。前者は時間をかければ解決する単なる学習不足で、後者が本当の意味での「苦手」です。
本当の苦手は、2回以上きちんと取り組んだのに正答率が上がらない論点だと考えてください。この切り分けをしないと、未学習の論点まで「苦手」として特別扱いし、対策が膨らみます。苦手として扱うのは、手をかけたのに伸びなかった論点に絞ります。
見つけた苦手を「重要度」で仕分ける
苦手論点が特定できたら、次は「潰す順番」です。ここで多くの人がつまずきます。見つけた苦手を、全部潰そうとしてしまうのです。
苦手を全部潰すのは、現実的でも必要でもありません。診断士1次は総点数60%以上、かつ1科目でも40%未満がないことが合格基準です。苦手をゼロにする必要はありませんが、足切りラインを割る苦手は放置できません。ここで効いてくるのが、Part2で扱ったABCランク——論点の重要度の分類です。苦手かどうか(正答率)と、重要かどうか(ABCランク)。この2軸で、潰す順番が決まります。
苦手 × Aランク = 今すぐ潰す
重要度が高く、かつ苦手な論点。これが最優先です。
Aランクは試験でよく問われる論点です。それが苦手だということは、出題可能性が高いのに得点できない場所があるということです。ここを放置したまま試験に向かうのは、失点が読めている状態で進むようなものです。限られた時間は、まず「苦手×Aランク」に集中して投下します。
苦手 × Bランク = 試験までに潰す
重要度が中程度で、苦手な論点。これは「試験までに」潰す対象です。
最優先ではありませんが、放置していい場所でもありません。Aランクを手当てしたあと、直前期までに取り組みます。
苦手 × Cランク = 深追いしない
重要度が低く、苦手な論点。ここは判断が分かれるところですが、独学で時間が限られているなら、深追いしないのが基本方針です。
Cランクはそもそも出題頻度が低い論点です。それが苦手だからといって時間をかけて克服しても、得点への跳ね返りは小さい。Cランクの苦手にかける時間があるなら、Aランクの苦手やBランクの定着に回したほうが合格には近づきます。ただし「捨てる」とまで振り切る必要はありません。直前期に基本的なところだけ最低限触れておく、という程度の距離感で十分です。
苦手を見つけたら、まずは「Aランクか、Bランクか、Cランクか」で扱いを分けてください。
苦手潰しの落とし穴
苦手対策には、はまりやすい落とし穴がいくつかあります。
ひとつめは、苦手を「克服」しようとして完璧を目指すこと。苦手論点を、得意論点と同じレベルまで引き上げようとしてしまう。けれど試験で必要なのは合格点であって、満点ではありません。苦手論点は「合格ラインに乗る程度まで」引き上げれば十分です。
ふたつめは、苦手にかかりきりになって、得意を錆びさせること。苦手ばかり見ていると、解けていたはずの論点を長期間放置してしまいます。Part1で扱ったとおり、人は触れていない論点を忘れていきます。苦手対策と並行して、得意論点の軽い復習も回し続ける必要があります。
みっつめは、1回解けたら「克服した」と思い込むこと。苦手論点が一度解けても、克服の証明にはなりません。時間が経てばまた忘れます。苦手だった論点ほど、少し間を空けて再確認し、「解けた」ではなく「安定して解ける」が、克服の基準です。
今日の一手
ここまでの内容を、明日からの動作に落とします。やることはひとつだけです。
今やっている過去問演習で、各問題に日付と正誤(○×)を書き込んでください。
新しい教材も、特別なノートも要りません。すでに過去問を解いているなら、各問題に解いた日付と○×を書き込むだけです。論点別の問題集なら同じ論点の問題が並んでいるので、×が続いている論点がひと目でわかります。
そして1周目では、まだ苦手の判断をしないこと。2周目以降で「2回以上取り組んだのに正答率が上がらない論点」が見えてきたら、それを苦手として認定します。認定したら、その論点がAランクかBランクかCランクかを確認し、「今すぐ/試験までに/深追いしない」を割り振る。
今日の一手は、「演習の各問題に日付と○×を書き込む」。それだけで、苦手はやがてデータの側から浮かび上がってきます。
まとめ
苦手対策で遠回りする独学者は、たいてい「苦手科目」という大きすぎる単位で考えています。
ひとつめは、苦手の解像度を「科目」から「論点」へ上げること。正答率を論点ごとに記録すれば、苦手はデータとして見えやすくなります。感覚ではなくデータで、しかも「苦手」と「未学習」を分けて見ます。
ふたつめは、見つけた苦手を「重要度」で仕分けること。苦手×Aランクは今すぐ、苦手×Bランクは試験までに、苦手×Cランクは深追いしない。
苦手は「論点単位」で見つけ、「重要度」で潰す順番を決める。これが、弱点対策で迷わないための判断軸です。
判断軸3部作が、これで揃いました
これで、判断軸3部作の3つがそろいました。
Part1(忘却曲線編)は「いつ復習するか」、Part2(ABC問題ランク編)は「どの論点に時間を使うか」、そしてPart3(苦手問題編)は「弱点をどう埋めるか」。この3つの判断軸が組み合わさると、「今日何を勉強すべきか」という問いに、感覚ではなく構造で答えられるようになります。
ただ、ここまで読んで気づいた方もいると思います。3つの判断軸を、毎日手作業で組み合わせるのは、現実的ではありません。
忘却曲線で復習すべき論点を洗い出し、ABCランクで重要度を確認し、正答率データから苦手論点を集計する。そのうえで今日やるべき論点を決める——とくに苦手度は、正答率の記録を集計し続ける必要があり、3要素のなかでも手作業が一番きつい部分です。判断軸を持つことと、その判断軸を毎日回し続けることは、別の問題です。
診断士コーチ:判断軸を、毎日回す部分を引き受ける
[診断士コーチ]は、この「判断軸を毎日回す」部分を引き受けるために作ったアプリです。
無料版でできること 過去問の正答率を論点ごとに記録すると、正答率の低い論点が一覧で確認できます。この記事で扱った「苦手論点を、データの側から浮かび上がらせる」部分を、記録さえ続ければアプリ側で見える化します。まず「自分の苦手がどこにあるのか」に気づくところまでは、無料版で十分に進められます。
Premium版でできること 忘却曲線・ABCランク・苦手度——3部作で扱った3つの判断軸を統合し、「今日やるべき論点」を自動で判定します。さらに「今やる/次にやる/後回し」まで仕分けるので、毎日の「何からやるか」という判断そのものを減らせます。判断軸を持つだけでなく、その判断を代行する。それがPremium版の役割です。
苦手に気づき、迷わず、進める。 3つの判断軸を、手作業からアプリへ。

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